志望動機を書くとき、多くの人が最初に気にするのは「冗長な表現になっていないか」「言い回しは正しいか」といった“文章表現”です。しかし、これは本来、志望動機づくりの最後の仕上げにあたる部分にすぎません。
最初に考えるべきなのは、文章の表面ではなく、「何を、どのような順番で伝えるべきか」という構成そのものです。
採用担当者が本当に知りたいのは、あなたの価値観、経験、強み、そしてその職場を選ぶ理由。これらが整理されていないまま言い回しだけ整えても、どれだけ時間をかけても文章はまとまりません。
私は普段、事業のブランディング設計やコンセプトメイクの仕事をしており、ゼロからストーリーを組み立てる業務に日常的に関わっています。その経験から、人や事業の「背景」や「強み」を構造化することを得意としています。実際に、転職を希望する数名の方の志望動機づくりをサポートした経験もあります。
この記事では、志望動機を作るときにまず固めるべき“中身の構成”と、自分の価値をしっかり伝えるためのポイントを、誰でも使える形でわかりやすく解説していきます。
志望動機づくりの第一歩は“表現”ではなく“構成”である
文章の冗長さや言い回しの善し悪しを気にする前に、最初にやるべきことは志望動機全体の構成を固めることです。構成とは、あなたが志望する企業に対して何を伝えたいのか、その流れを設計する作業です。どれだけ言葉を整えても、“何を伝えたいのか”が定まっていなければ、文章は必ず不安定になります。
採用担当者が知りたいのは、「あなたがこの仕事を選んだ理由」「どんな経験が自分を形作ってきたのか」「その経験から何を学んだのか」「どんな強みを持っているのか」「なぜその企業でなければならないのか」「将来どう成長したいのか」。これらのポイントを押さえて初めて、志望動機という文章は“読んだ瞬間に伝わる”姿になります。
この段階では、文章が多少長くても、表現がぎこちなくても問題ありません。“中身の設計がすべて”です。
志望動機の全体構成(例)
志望動機は“どんな内容をどんな順番で並べるか”によって、伝わり方が大きく変わります。
ここでは、採用担当にしっかり届く志望動機を作るための全体構成を、例とあわせて紹介していきます。
志望動機の構成例
① 結論:御社で働きたい(理由ひと言)
② 興味のきっかけ:宅建独学→不動産の仕組みが面白いと感じた
③ 学びと経験:勉強→アルバイトで事務経験→正確さや対応力を習得
④ 強み:丁寧さ、正確さ、聴く力、調べる力
⑤ この会社の理由:地域密着・丁寧な対応に共感
⑥ 未来:不安を安心に変える事務職として成長、宅建取得を目指す
この構成が強い理由
- PREP法(結論→理由→具体例→再結論)が自然に埋め込まれている
- 「なぜこの会社?」の説得力が上がる
- 「自分の軸・強み・未来」が採用側に刺さる
- 書く人によって“中身だけ”が変わるため汎用性が高い
では、ここからは具体的にポイントを見ていきましょう。
① 結論(志望の意志)—最初の一行で「この子いいな」と思わせる
私は、不動産に関わる手続きを“安心して進められる状態”をつくるサポート役として働きたいと考え、丁寧な対応を大切にされている貴社を志望いたしました。
② 興味を持ったきっかけ—深さある興味が伝わるように
不動産に興味を持ったのは、独学で始めた宅建の勉強がきっかけでした。
法律の条文だけでなく、「なぜこのルールが必要なのか」「どんなトラブルを防ぐためなのか」を知るほど理解が深まり、気づくと問題集よりも解説書を読み込んでしまう自分がいました。不動産の仕組みは、生活の土台を守る大切な知識だという実感がありました。
③ 学びと経験(時系列)—流れが自然で好印象になるように
宅建を勉強する中で、「現場での経験も必要だ」と感じ、書類を扱う事務アルバイトを選びました。そこでは契約書類の整理や顧客情報の管理を担当し、誤字脱字ひとつでも後工程に影響が出るという緊張感のある環境でした。はじめの頃はチェックが甘く、先輩に指摘されることもありましたが、ミスの原因を分析したり、チェックリストを自作することでミスを減らせるようになりました。この経験から、事務の仕事は「ただの入力作業」ではなく、人の安心を守る重要な仕事だと理解するようになりました。
④ 自分の強み(人柄・姿勢)—人としての魅力が伝わるように
私の強みは、「相手の気持ちを丁寧に受け取ること」と「わからないことをわからないままにしないこと」です。アルバイトでお客様対応をした際、急いでいて不安そうな表情をしていた方がいました。その方の要件を一つ一つ伺い、書類の準備を手伝ったところ、最後に「あなたにお願いしてよかった」と言っていただけた経験があります。私は特別に話すのが上手いわけではありませんが、“相手のペースに合わせること”と“気持ちを受け止めること”は自然にできるタイプだと感じています。また、宅建の勉強でも、分からない部分を放置せず、納得するまで調べて理解する習慣がつきました。この姿勢は、正確性が求められる事務職でも必ず活かせると考えています。
⑤ なぜこの会社なのか—読み手に「ちゃんと調べてくれたんだな」と思わせる
貴社を志望した理由は、地域に住む方々に対して丁寧に説明し、安心を提供する姿勢に魅力を感じたからです。ホームページのスタッフ紹介の中に「お客様の不安を取り除くことを大切にしている」という言葉があり、その姿勢に心から共感しました。また、問い合わせ対応や書類サポートを事務スタッフも一丸となって行われている点に、事務職として働くイメージが鮮明に湧きました。
⑥ 将来のビジョン(人としての魅力+成長意欲)
将来的には宅建士資格の取得に挑戦し、契約内容や権利関係について正確な知識を持ちながら、お客様に不安なく取引を進めていただけるような存在になりたいと考えています。特に、不動産の知識に不安を持つお客様に対して、手続きの流れを整理して分かりやすく説明したり、「大丈夫ですよ」と安心していただけるようなサポートができる人材を目指しています。私の軸は、「人の不安を軽くすること」と「学んだ知識を活かして役立てること」です。この軸を大切にしながら、貴社で成長し貢献していきたいと思っています。
自分の価値を押し出すには“経験の解像度”を上げる
志望動機で最も説得力を持つのは、美しい言い回しでも立派な経歴でもありません。あなたが日々の仕事や学びの中で感じてきた“具体的な経験”です。
例えば、不動産事務であれば、契約書類を扱う中で正確性の重要さを理解したこと、不安を抱えるお客様に寄り添った経験、自分で調べて学ぶ習慣がついたこと、社内での連携の大切さを知ったこと、感謝の言葉をもらえた喜びを感じたこと。
こうした具体的な経験は、文章の一部ではなく“あなたの価値そのもの”です。志望動機においては、こうした経験から得た“気づき”や“学び”を言葉にすることで、自分の強みが自然と立ち上がります。
「なぜこの会社なのか」は最重要ポイント
多くの応募者が見落とすのが“企業固有の魅力”を書くことです。
採用担当者は「業界全般に興味がある」のではなく、「なぜ当社を選んだのか」を知りたいのです。ホームページを読み、代表の言葉に共感したのか、事例紹介に惹かれたのか、地域に根ざした姿勢に魅力を感じたのか、どんな場面で心が動いたのかを明確にすることが大切です。これがあるだけで志望動機は一気に“本気度の伝わる文章”になります。
【まとめ】文章の美しさより大切なのは“芯のある構成”
志望動機づくりで最初に気にすべきなのは、冗長な表現でも言い回しでもなく、まず“何を伝えるべきか”。文章は「内容 → 流れ → 表現」の順で整えていくのが正解で、表現だけを整えようとすると必ず行き詰まります。
あなたの経験、価値観、働く理由、強み、事務所を選んだ理由、未来への思い。これらを順番に置くだけで、自然で芯のある志望動機になります。言葉の細かい調整はそのあとで十分。
大切なのは、あなた自身の物語を、自分の言葉で丁寧に並べることです。そこにこそ、志望動機としての説得力と人柄が宿ります。

